今更なのですが、80歳になっても20本以上の自分の歯を保とう という運動のことを8020運動ということは、ご存知の方も多いと思います。
これが提唱され始めたのが、1989年(平成元年)日本歯科医師会と厚生省(当時)によるものだそうです。
80歳というのは、提唱され始めた当初(平成元年)日本人の平均寿命が男性75.9歳 女性81.8歳だったため、人間の一生という時間の流れを象徴したものだったそうです。
ところが平成30年の簡易生命表によると、男性81.3歳 女性87.3歳 と80を大きく上回り、80をゴールとする考え方からより健康な高齢期を過ごすための運動という捉え方に変わり、実際達成率は大変向上しています。
提唱され始めた当初、75歳以上の後期高齢者で、20本以上の歯を保っている人は、10%未満でしたが、少し古い統計ですが平成28年の調査で75~84歳の51%が既に達成しています。後期高齢者全体となるともっと多いことになります。
グラフをみると、達成率はぐんぐん上昇しており、今後もさらに上昇することが見込まれています。
20本というのにも根拠があり、咀嚼力と歯の本数の因果関係を調べる栄養調査によって得られた数字で、20本の歯が残っていれば、固い食品もほぼ満足に噛めることが科学的にも証明されているそうです。
但し本数にこだわるあまり、医療上必要な抜歯も拒否する人もいるようで、この8020運動というのは、社会集団としての目標であって、個別医療における目標ではないことに注意が必要だと述べられていました。
例えば、歯槽膿漏などの治療のためにどうしても抜歯が必要な場合、たとえ20本より減少したとしても、義歯によりある程度の咀嚼の回復は可能だそうです。
義歯でもきちんと噛めている人は、健康状態が高いという調査結果もあり、義歯治療を考慮に入れた場合、8020を意識する必要はそれほど高くないという意見もあります。
行政とタイアップして国民全体の健康を向上させるという公衆衛生としての考えと、個別の患者さんと1対1で相対して働く医療現場の考えと必ずしも一致しないことは、町の一開業医として日々感じるところですが、歯科の世界でもあるのだなと改めて知ることができました。