昨日の外来で、ゴールドマン眼圧計で眼圧を計っていた際、大きく息を吸い込んだまま吐き出す気配がないまま眼圧を計ると、普段からコントロールの良い患者さんなのに、眼圧が上がっていました。
片眼を計る時、息を止めないで普通の呼吸をして下さい と伝えると、そちらはいつも通り。
その状態で、最初の目の眼圧を計りなおすと、いつもの眼圧に下がっていました。
これは息を止めると、胸腔内圧が上がるため、眼圧が上昇するのですが、この方のようにはっきりわかる程大きな息をして止めていると気付きますが、こっそり息を止めていると、今日の眼圧が高いのは、どうしてかなと悩む原因になります。
所で、昨日その患者さんを診察していて、ふと以前読んだ論文を思い出しました。
呼吸を止める病気として有名なものに、睡眠時無呼吸症候群というのがあります。
これは、睡眠中に呼吸が停止する発作が繰り返される病気で、脳梗塞や心筋梗塞の発症率が高いことに加えて、緑内障の有病率が正常な人の10倍近く(これは発表機関によって様々ですが、高いことは確か)あることが、知られています。
緑内障の有病率が高い理由はまだよく知られていませんでしたが、普通は息が止まると眼圧が上がるので、緑内障になりやすいのかと考えるのですが、北大の眼科の神明 康弘先生(当時)がスイス製のコンタクトレンズ型眼圧計を用いて、患者さんの睡眠を妨げずに眼圧を測定することに成功し、5分ごとに持続的に眼圧をモニターすることができ、その結果が2016年6月にプレスリリースされています。
コンタクトレンズ型眼圧計を装着するとともに、睡眠状態をモニターする睡眠ポリグラフィーも記録し、世界初の発見 つまり、睡眠時無呼吸症候群の患者さんは、緑内障発症率は正常人の10倍に達するけれど、睡眠中の呼吸が停止している時の眼圧は、むしろ低下していることを発表しました。
先程の息を止めた時は、胸腔内圧が上がりますが、睡眠時無呼吸症候群はむしろ気道閉塞で息が吸い込めなくなっているため胸腔内圧が下がって、外圧に対して陰圧になるため眼圧が下がるということが解明されたと記されています。
緑内障の発症率が上がるのは、むしろ血中酸素飽和度が下がるために、低酸素状態による視神経障害などが考えられるのではないか と考察されています。
この場合も、緑内障の治療としては眼圧を下げることしか、今のところないわけですが、低酸素状態を解消する睡眠時無呼吸症候群の治療をすることにより、緑内障の進行を食い止めることは大切だと思います。
ただ、睡眠時無呼吸症候群の専門医に緑内障の発症率が高いことが知られているのかどうかが気になるところです。