多焦点眼内レンズを選択する一番のメリットは、白内障術後なるべく眼鏡を使用せずに日常生活が送れる という点です。
日常生活というのは、テレビを見たり 新聞を読んだり スマホを見たり お買い物に行ったりといったことです。
ですから、とても細かな細工をする職人さんや、長距離運転をする仕事の人 デザインなどの美的な仕事など、繊細な見え方の質が問題となる場合は、向かない場合があります。
多焦点レンズは、目の中に入ってきた光を分散するため、例えていえば、単焦点レンズで遠方に合わせた場合、遠方だけを取ると単焦点レンズの方が、くっきり見えている。
その代わり単焦点の場合は、細かな文字は眼鏡なしでは見ることができないですが、多焦点の場合はメガネをかけなくても大体の用事は済ませることができる。
ただし同じ人が2つのレンズを同時に経験することは、普通はないことですので、白内障が治療によりなくなったことにより、コントラスト感度は改善していますので、多焦点レンズでの見え方には大体満足できるという結果になります。
職業的には、そういう細かな仕事や、夜に運転をする仕事が向かない場合がありますが、性格的には神経質な方や完璧主義の方は、大雑把な方より向かないということになります。
今まで受けた方を思い出してみて、今のところそういう不適応を起こした方は、おられませんが、それは手術前の情報を患者さん自身がよく収集してから臨まれたからだと思います。
職業的なことや眼科的な病気に対しての適応については、眼科医としてアドバイスはできますが、性格的な点については、なんといってもご自分が一番よくご存知だからです。
外来で少しお話した程度で、その方の性格までよくわかるというのは、ちょっと傲慢な気がします。
人間というのは、もっと複雑なものだと思います。
眼科医として、多焦点レンズを選択するにあたり気にかけることは、眼科的な病気がないかどうかということです。
病気があった場合、現在は軽度でも例えば、緑内障にしろ糖尿病性網膜症にしろ加齢黄斑変性症にしろ、その後どのような経過をたどるかは、あるいは新たにそういった病気を発症するかは、予測の域を超える場合もあります。
ただそれは、単焦点レンズでも同じことですから、ともかく多焦点レンズの機能を充分使いこなせる網膜の力が、その手術の時点である、ということは必要なことだと思います。
年齢が上がるにつれ、その力は衰えるということになっていますが、これも個人差があり、いちがいに年齢で切り捨てるのも失礼な話だと思います。