青視症という言葉は、あまり耳にすることはないかもしれません。
白内障の術後、とてもよく見えるようになったし、何より色合いがとても鮮明で別世界のようだという表現で喜びを表してくれる患者さんがいます。
色合いについては、他の眼疾患のために残念ながら 視力がでない場合でも、白内障手術により鮮やかに見えるようになったという感想を教えてくれる方もいます。
かなり昔、陶芸家の患者さんを受け持った時、青い色についてとても感動的に術前・術後の色の違いについて、教えてくれた方がいました。
何とか症というと病気らしく聞こえるのですが、この青視症というのは、眼科の中では白内障の術後に上記のように、青い色が鮮明に見える状態をさします。
昔は白内障手術も今よりかなり進んだ状態までおいておくことが珍しくなかったですし、人工水晶体は今のように黄色く着色されたレンズは一般的ではなかったため、より強く感じたことだと思います。
白内障が進んでくると、水晶体は無色透明の状態から、黄色く着色してきて、青色の光を遮るため、多彩な色合いの中でも特に青い色については鮮明度が落ちます。
もちろん長い年月をかけて白内障は進行するため、術前に自分で自覚することはあまりないかもしれません。
白内障手術によって、濁った水晶体は透明な人工水晶体に置き換わるため、青色光が多く眼内に取り込まれるため、青色が特に鮮明に見えることに気付く人もいます。
その状態を青視症と呼びますが、病的ということではなく大体数か月で見え方に慣れてきて、違和感はなくなります。
私はこのブログを書きながら、モネのことを思います。
有名なお話ですから、ご存知の方も多いかと思いますが、印象派の巨匠モネも白内障で苦しんだ人でした。
60代後半に白内障と診断されて手術を勧められたものの拒否。
モネの作品はこの頃から暖色がかってきて、作品の色合いが赤黄色く濁ってきている。
結構頑固で、手術拒否のモネも82歳でようやく手術を受けたものの、今のように人工水晶体はないので、分厚い凸レンズのメガネで矯正するしかなく、そのために視野も変形して、思ったように今までのように描けなかった。
しかも色調は暖色から寒色へ。つまり青視症の状態。
ただ手術翌年に、カールツアイス製の当時最新鋭の眼鏡を手に入れ、86歳で亡くなるまで制作を続けたそうです。
約15年間も白内障の状態で、印象派の巨匠として不安と闘いながら描き続けたモネ。
現代医療の中でも、白内障手術はとりわけ人々の幸せに貢献できているのではないかと、眼科医として、少し嬉しく思います。