白内障手術では、原則的に人工水晶体を眼内に収めることが必要です。
水晶体は凸レンズですが、それを手術の時に濁りとともに除去してしまいますから、そのまま放置すると、かなり強い遠視の状態です。
まだ人工水晶体を入れる手術が保険適応ではなかったころは、ご高齢の方が手術後凸レンズのメガネをかけて、とても大きな目に見えている方にお会いする機会がよくありました。
そのメガネは重く、今から考えるとかなり負担だったこととは思いますが、おしなべてかなり視力が低下してからの手術だったため、術前の不快感から解放され、そのような状態でも喜んで受け入れておられたように思います。
そのあと1か月入れっぱなしのコンタクトレンズで矯正することができるようになり、だいぶ不自由さは和らいだと思いますが、毎月眼科受診をして、交換・消毒などの手間もあり、今から考えますと隔世の感があります。
現在でも何らかの理由で人工水晶体を入れることができなかった方は、そのような処置を継続していることもありますが、術後かなり経ってからでも2次挿入といって、人工水晶体を入れることができるようになったため、当院ではついに白内障術後のコンタクトケアに来院される患者さんは、お一人だけとなりました。
現在は人工水晶体も、単焦点レンズと多焦点レンズの選択も可能となり、多焦点レンズも2焦点 3焦点 連続的等日進月歩の状態です。
単焦点レンズでは、何らかのメガネが必要になりますが、多焦点レンズでは必要になる状況がかなり減ることがメリットですが、夜間に光るものを見た時にかなりはっきりとした光の環がみえたり、見え方に慣れるのに人によってかなり時間差があったり、何よりほとんどのレンズに保険適応がないため高額であることです。
現在のところ、生命保険の先進医療特約に加入していると、多額な多焦点レンズ代もカバーしてくれるようですが、あまりに多くの加入者が利用するため、おそらく近い将来適応から外されるだろうといわれています。
健康保険も、医療費削減が叫ばれているのですから、今後保険診療に組み込まれることはないと思います。
本来の治療ということを考えれば、確かに多焦点レンズは贅沢なことかもしれません。
以前のとても分厚くて重そうなメガネをかけていた時代から考えれば、人工水晶体が保険適応になった時、喜びをもって迎えられたのですから、その恩恵を思い出すことも必要かもしれません。
また人工レンズは、人間の英知が作り出したものですから、どんどん開発されていきますが、そこには企業の思惑などもあるのかもしれません。
ですからこういう時こそ自分はどうしたいのか、自腹をきったとしても、また良いことづくめでなくても、一生に一度見え方を変えることができるチャンスにかけることにするかを熟考する必要がありそうです。