iPS細胞(人口多能性幹細胞)を使った再生医療のニュースが時々新聞に取り上げられます。日本で初めに作られたこの細胞を使って、世界に先駆けて再生医療に利用すべく、治療研究が進んでいます。眼科の分野で将来治療の対象となりそうな病気は、網膜色素変性症や加齢黄斑変性症などで、自分の皮膚細胞から作ったiPS細胞を使って作成した網膜の組織(網膜色素上皮)を、手術によって移植するものです。まずは移植した網膜が正常に働くか、ガンなどの異常細胞に変化しないか、といった安全面の確認が第一歩ですが、今後の研究でこれらの課題が解決されれば、ほかの病気や組織にも応用される可能性が高くなり、将来とても楽しみです。
iPS細胞は本人の細胞で作られるので拒絶反応の心配が少なくて済む反面、手術までの準備にかかる時間(細胞を作って育てる時間)が長すぎて、脊髄損傷など緊急の病気に対応できないことが課題でした。今年6月には、他人のiPS細胞のなかでも拒絶反応が起きにくいものを選んでストックしておく、iPS細胞バンクを確立し、ここの細胞から作った網膜色素上皮細胞を移植に使う治療が、発表されました。すべての患者さんに有効な治療となるにはまだ時間がかかりそうですが、確実に進歩しているようです。今はまだは良い治療方法がない病気の患者さんの、少しでも心の支えになれば、と思います。
(前沢義典)