それでは前回に引き続き、白内障手術における麻酔法について、それぞれ詳しく説明したいと思います。
まず一般的に最も多く行われている麻酔には「点眼麻酔」があります。これは麻酔の目薬だけなのでとても簡単です。この点眼麻酔だけですべての手術ができたら、患者さまにとっては麻酔に対する抵抗も少なく理想に近いのではないでしょうか。しかしこの点眼麻酔にも欠点があります。それは麻酔の効果が短いことです。手術が短時間で終わればいいですが、時間がかかれば痛みを感じるので注意が必要です。また点眼麻酔は目の表面には効果がありますが深部にまでは効きにくいため、症例にもよりますが痛みが出る場合が時々あります。
そこでその欠点を補えるものが、次に多く行われている「テノン嚢下麻酔」という麻酔法です。これは結膜(しろめ)の下にあるテノン嚢と呼ばれる組織の下に麻酔液を注射する方法です。注射と聞くと痛いのではないかと想像されますが、点眼麻酔と併用して行いますし、痛みは多少あるかないかといった程度です。この麻酔では1回の麻酔で数十分程度の効果が期待でき、かつ痛みを抑える効果も強めです。唯一の欠点としては注射した部分が手術後に内出血しやすいので、手術後に目が赤くなりやすいことや、麻酔した部分が少しゴロゴロすることがある点などが挙げられます。通常これらは一時的なもので治りますので、まず心配はありません。
3つ目は「球後麻酔」という麻酔法です。これは下まぶたの皮膚から眼球の奥に向かって麻酔をする方法ですが、麻酔の時間が長く深く効きますし、目がキョロキョロする場合にもそれを止める効果もあります。ただ皮膚から注射しますので点眼麻酔やテノン嚢下麻酔よりは注射自体の痛みがどうしてもあるのが欠点です。また球後出血といって目の奥に出血してしまうことが極めて稀ですがありますので、最近の白内障手術ではこの麻酔を行う術者は少なくなってきています。
では最後に「前房内麻酔」という麻酔法です。これは前房という目の中に麻酔液をごく少量入れる方法です。とても簡単ですし、麻酔の痛みもまずありません。麻酔時間は15分程度で点眼麻酔よりも長く、通常の白内障手術では麻酔が切れることもほとんどありません。さらに深部まで効果がありますので、点眼麻酔よりも麻酔の効果も強めです。またテノン嚢下麻酔のようにしろめが赤くなったりゴロゴロすることもありませんので、私は好んでよく使う麻酔法でもあります。
以上、白内障の麻酔法についての紹介でした。なお麻酔の効きにくい人、痛みに敏感な人など個人差もありますので、それぞれに合った麻酔を選択することが大切ではないかと思っています。