厚労省の委託事業である、公益財団法人日本医療機能評価機構が行っている事業の一つに、エビデンスに基づく白内障診療ガイドラインの策定に関する研究 というのがあります。
難しい言葉が並んでいますが、今回の話題はその中で、薬物療法の適応 つまり白内障治療の一環として、大部古くからある点眼薬や内服薬 漢方薬等が、根拠のある治療として、推進していけるかどうかを検討してみようということです。
それによりますと、A 行うように強く勧める
B 行うように勧める
C 行うか行わないか勧めるだけの根拠が明確ではない
D 行わないよう勧められる
のどれかに結果を出さなければなりません。
過去に発表された医学中央雑誌の論文58件の分析の結果です。エビデンスレベルにもグレード分類があり、大変複雑になるので、今回は結論だけを書くことにします。
まず内服薬については抗酸化物であるビタミンC ビタミンE βカロチンの白内障進行阻止効果については、勧告グレードD
ベンダリン Lシステインは勧告グレードC
国内承認薬のチオプロニン パロチン 漢方薬の八味地黄丸 牛車腎気丸は勧告グレードC
国内承認済みの点眼薬 内服薬ともに、有効性を検討したランダム化比較試験がないかあっても極めて少なく、十分検討されていない。
また数少ないランダム化比較試験においても、症例数が少ない 効果判定に自覚試験の矯正視力を用いている 混濁変化判定用の写真撮影の再現性、評価方法が不明確で再現性を欠いている。
そういった理由で、承認済みの薬についても、処方にあたっては、十分なインフォームドコンセントを得たうえで、使用することが望ましいとの結論になっていました。
また漢方薬は、白内障に対する効果に科学的根拠がないので勧められないとの結論になっています。
結局現在のところ、白内障の薬物療法に関して、十分な科学的根拠を持つ薬物は無く、国内承認薬の使用に当たっては、その有効性が明確ではないことの十分なインフォームドコンセントを得たうえでの投与が望ましい。
また今後各々の薬物に対する科学的根拠を明確にする必要がある。
かなりきっぱりと結論がなされていました。
この発表があったのは、2005年5月となっており、かなり物議をかもしたことを覚えています。
患者さん 製薬会社 医師それぞれに思うところがあるでしょうが、現在でも保険適応はもちろんあり、患者さんの希望があれば、保険医としてもちろん処方することはやぶさかではないです。
ただそれより、白内障については、あからさまに根拠がないと指摘されている点眼薬をつかうよりは、その時々で必要な眼精疲労やドライアイの点眼薬を使う 或いは点眼薬は使わず、1年に1回でもいいから自分の目の状態をチェックして、必要な時期に思い切って手術を受ける決心をする
といったことの方が意味があるかもしれません。