国内のほとんどの眼科医が所属する日本眼科医会が、月刊で出版し会員全員に配布される日本の眼科という雑誌の、今月の特集は、近視のマネジメントという話題でした。
学術誌というより、国内の眼科医全員がある程度おなじコンセンサスのもと、日々診察できるようにという意図で作られていると考えています。
その話題のあらましを、ここで紹介したいと思います。
世界的に視環境の変化により、近視人口が増加しており、2050年には世界全人口の半数が近視に、強度近視人口も約1割になると推定されている。
それに伴い、今後高齢者の視覚障害者を急増させる懸念があり、国際的な公衆衛生学上の課題となると警告されている。
国際近視機構(IMI)も設立され、国際基準に沿った近視マネジメントが普及するようにという体制が整ってきている。
それによると1次体制 国家規模での予防対策 2次体制 広く眼科専門医 3次体制 遺伝的要因が強い病的近視や、小児期からの過度な近視進行から病的近視に進行した患者さんを長期的に、専門施設で集学的管理を受ける という体制をとること。
今までも、散発的に書いてきたことですが、1次体制というのは、10歳以下の早期発症を防ぐことが、第一目標です。
上記IMIが2020年にまとめた結果によりますと、教育(近業) 両親の近視 屋外活動の少なさが近視を進めることに強い因果関係があり、人種(今まではアジアに近視が多いといわれていた) 睡眠 食事 夜間照明(これも一時近視を進めるといわれていた)は、因果関係が少ないとなっている。
特に教育について研究者が、個人の健康と経済的利益の目的で子供たちに教育を施す一方、将来的な視覚障害者を急増させている矛盾 過剰な学歴社会を見直す 等言及している。
研究者がこういうことに言及するというのも、おもしろいのですが。
2次予防策については、低濃度アトロピン点眼 近代オルソケラトロジー 多焦点ソフトコンタクトレンズなどが海外で認可承認を得ている。
近年新しい技術を用いた複数の特殊眼鏡が、無作為比較試験で、オルソケラトロジーや多焦点ソフトコンタクトレンズによる近視抑制治療に匹敵する効果を示し、眼鏡による治療であればリスクが低く簡単に実施可能で、オルソやアトロピンに比較して副作用がほとんどない。
一方、これらに対してさらに詳しい考察論文が追加記載されていました。
低濃度アトロピン治療については、眼軸長の抑制効果がみられないこと 論文作成上の問題があったこと 追試で抑制効果が再現できなかったこと
オルソケラトロジーについては、治療機転についてまだ議論がある 装用中断によるリバウンド 急性・慢性的な角膜障害のリスク 患児の時間的 経済的 心理的負担
特殊眼鏡については、経済的で治療が煩雑でなく学童対象とする予防治療としては、第一選択となるはずであったが、効果については、臨床的治療としては未だ推奨できないという結論となっている。
長く書いてきたわりに、今までの常識とほとんど変化がない結果だったということは残念なことですが、世界中の専門家が近視進行を抑制しようと本気で立ち向かっていることは、知っていただけたのではないかと思います。
高度近視による失明を避けるためには、予防がもちろん大切ですが、すでに高度近視の方にとっては、予防ではなく治療が必要な状態ではないかを知ることが先決です。
視力についていつもと違う見え方ではないかを、時々チェックして、必要に応じ眼科受診してみることをお勧めします。