白内障手術を受ける決心がついた後、必ず患者さんとお話しするのは、手術後どこが一番みたいかということです。
白内障手術というのは、濁ってしまった水晶体をきれいにしただけでは、ピントを合わせることはできず、はっきりとモノをみることはできません。
そこで、昔のように、水晶体を全部丸ごと取ってしまわず、水晶体の外側はきれいに残して、中の濁りだけを吸い取って、その自分の水晶体の袋の中にそっと人工レンズを挿入します。
人工レンズがきれいに収まったおかげで、ピントが合ってモノを鮮明に見ることができるようになるのです。
ただ残念ながら、老眼は正常な老化現象ですから治すことはできませんので、人工レンズを挿入しても、若い時のように、遠くも近くも見えるというわけにはいきません。
遠くが見えたいですか、それとも近くの文字或いはコンピューターがよく見えたいですか、などお聞きするのですが、基本的には今まで遠くが見えていた人は遠くに、近視で近くは比較的自分の目で見えていたという人は、見たいものがはっきりしている場合は 例えばスマホや本 新聞 コンピューター 楽譜 等少し見たいものの距離が違う場合は、近視の程度を加減して合わせることになります。
たまに今まで近視だったので、もう一度遠くを自分の目で見てみたいという希望の方には、あえて遠くに合わせることもあります。
ただし、手元が見にくくなることは必発です。
その逆は、少し慎重に説明します。
つまり、手元が見えればよいので、若い時は目が良かったけれど遠くは見えなくてもよいと言われる方には、近視になるということは、大体毎日ほとんどメガネをかけて過ごすことになるということを説明します。
手元が楽に見える度数というのは、裸眼では0.1そこそこですから、普段はメガネなしでは過ごせないことが多いのです。
もともとの目の様子とあまりかけ離れた状態になるとなじむのに、やはり時間がかかります。
ただ十分説明した後の患者さんの選択は尊重しますので、ご相談ください。
今までのお話は、単焦点レンズという一か所にピントを合わせるレンズのお話ですが、最近多焦点レンズも普及してきました。
ただこれも老眼対策というだけで、若い時のように、柔軟に水晶体を自由自在に厚みや形を変えてピントを合わせるわけではなく、レンズ自体に工夫があって、遠近両用のコンタクトやメガネで補正する感覚です。
メガネのように見方の工夫などはいりませんが、見るということは目だけではなく、脳も使ってみていますので、適応するのにかかる時間は個人差があります。
分光するため、慣れるまで鮮明さが落ちたり、夜間光を発するものを見ると暈ができたように見えるといった現象もあります。
極力メガネなしで生活したい、おおよその範囲を自分の目で見れて、必要があればメガネで補正するという気持ちの方が受けると満足度は上がると思います。
一生でただ一度、自分で見え方を決めることができるチャンスですから、心配でもあり、楽しみでもあると思います。
このレンズも日進月歩で2焦点 3焦点 遠方から50cmぐらいまで連続的等いろいろな種類がでてきています。
視力がでる目であることが前提ですから、視力にかかわる病気がある場合は適応がありませんし、あまり神経質だったり、かなり細かな作業が必要な場合など、仕事や性格によっては向かない場合もあります。
また疑問があれば、外来受診時にご質問ください。
私だったらということを、よく聞かれますので、先にお答えしておきますと、やはり多焦点レンズを選びたいと思っています。