さて今回は前回に引き続き多焦点の話です。以前にブログでも多焦点の概要について説明しました。多焦点眼内レンズでは手術のやり方こそ通常の白内障手術と基本的には変わりはありませんが、患者さんによっては単焦点の方が適している場合も多く、それを選別するところに難しさがあります。
多焦点レンズはピントが合う幅が広いですが、クリアーさで言うと単焦点には劣ってしまう部分があることは前にもお話しました。ほとんどのケースではすっきり見えるし、もちろん満足していただけることの方が多いですが、先日の学会で有名な先生が発表されていた話では、全体の約1%で強い不満を自覚するケースがある、とのことでした。そしてそれが手術前から分かっていればもちろん単焦点を選択するわけですが、残念ながら手術前に正確にそれを予測することはできない、との話でした。
また多焦点眼内レンズは、もともと近視の人で不満に感じるケースが多い傾向があるようです。これはもちろん一概には言えないのですが、近視の人は普通若い頃から近視のことがほとんどで、近くを見るには眼鏡をかけずに人生今までやってきました、という人が多くいます。このような人に対して例えば単焦点レンズを選んだとしましょう。その場合、眼鏡をかけずに近くを見たい人には、そうなるような眼内レンズの度数を予測して入れます。あるいは眼鏡なしで遠くを見たいという人には、そのように眼内レンズを選択しておいて、それ以外の距離ではほぼ必ず眼鏡が必要というふうに説明します。もともと単焦点であれば距離によっては眼鏡が必要とあらかじめ説明していますから、特に後から不満を言われることはめったにありません。
ところが近視の人に多焦点レンズを選択した場合、患者さんとしては近くが見えることはもちろんで、さらに遠くもよく見える、と当然期待されます。ですが多焦点では単焦点で近くに合わせて手術した場合のクオリティよりは見え方が劣る可能性があり、特に近くというのは非常に細かい物体や文字を見ることが多く、もしそれが物足りなければ、やはり期待した見え方と実際の見え方のギャップが少なからず出てしまうように思われます。逆にもともと遠視の人であれば手術前は近くも遠くもどちらの距離も眼鏡がないと見えないことが多いため、多焦点レンズにすると満足度が高い傾向があります。
また手術する年齢によっても実は違いが出ることもあります。一般的に若い患者さんの方が同じように手術しても視力が出やすい傾向があり、やはり高齢すぎると脳年齢も高齢ですので、視力があまり良くならないこともあります。
以上、多焦点レンズについて少し詳しく説明しましたが、これらの内容は実際には一概には言えませんし、患者さん一人一人によってどの眼内レンズが良いのかは違ってきますので、よく相談して納得してもらって手術を受けて頂きたいと思っています。もし白内障手術について詳しく聞きたい方がおられましたら、是非当院へお越し下さい。