さて本日は前回に引き続いて白内障手術の合併症についてです。今回は術後の合併症、感染症のお話になります。
白内障を含めてありとあらゆる手術において必ずと言っていい程に付き物なのが、この「術後感染症」です。特に白内障手術で問題になる感染症は目の中の感染症で、「感染性眼内炎」という合併症です。これは簡単に言うと、目には見えない小さな細菌が手術をきっかけに目の中に入り、それが増殖してしまうと感染症を発症し、目の中の組織が細菌によって破壊されてしまう怖い合併症です。
細菌というものは実はいたる所に無数に存在していて、私たち人間の皮膚や、眼瞼などの目の縁に多少は住み着いています。感染症を防ぐためには、通常手術前から抗菌剤の点眼を入れたり、手術中に入念に消毒してから目をよく洗ったり、また手術器具も必ず滅菌済みの清潔な物を使用することによって感染症が極力発症しないように細心の注意を払うことになります。ところがどんなに注意を行なっても細菌がゼロになるとは言い切れず、手術中にはわずかな細菌が目の中に持ち込まれてしまっている可能性も少なからずあります。また手術後に傷口から細菌が目の中に進入してしまう可能性だってあります。こうしたことによって平均的には約2000人に1人程度でこの「感染性眼内炎」は発症する可能性があると言われています。
また発症しやすい時間帯というものがあります。それは手術後の2〜3日目、1週間前後になります。もし万が一発症しますと、発症してから数時間足らずのうちにみるみる視力が低下してゆきますので、通常は自覚症状として気づくことがほとんどです。痛みと充血も同時に起こることが多いですがこれらは絶対ではないので、確実なのは「時間と共に進行する視力低下」ということになります。
軽度な感染性眼内炎では抗菌剤の頻回点眼+抗菌剤の眼内注射で治せることもあります。ただしこれで治ることは比較的稀であり、感染が目の中全体、特に奥の方の硝子体や網膜といった部分にまで波及してしまうことが多く、こうなると硝子体を切除する硝子体手術まで行う必要性が出てきます。再手術まで必要になることもあり、通常は入院施設のある大きな病院での治療が望まれます。
私自身、自分が白内障手術をした患者さんで感染性眼内炎を発症した患者さんが実は過去に一人だけおられます。手術中も全くトラブルもなく、手術後も最初は極めて順調でした。ところが術後1週間後に急に目が見えなくなり、結局大学病院で2度の硝子体手術を行ってもらいました。残念ながら感染性が重篤でしたので、最終的には視力がかなり損なわれてしまったことを今でもよく覚えています。確かこの患者さんは手術前の抗菌剤点眼が実はきちんと出来ていなかったということが後で判明したと記憶しています。いかに点眼が大切かということも痛感しました。
このような合併症が起こらぬよう、これからも出来る限り安全な手術を心掛けて参りますので、どうぞよろしくお願いします。