本日は合併症のお話です。少し前になりますが、テレビドラマで「私、絶対失敗しないので」なんてセリフを耳にしました。失敗というところまではなかなかありませんが、100%の結果が得られる手術というのは残念ながらなく、人によって満足度も違いますし、通常あまり起こらないようなトラブルが手術中あるいは手術後に起こることはどうしてもあります。
そこで今回は白内障の手術中に起こりうる合併症について説明したいと思います。まず一つめは「破嚢」と呼ばれる合併症です。簡単に言いますと、嚢(ふくろ)が破れるというものです。白内障手術は水晶体の混濁を取り除き人工のレンズを入れる訳ですが、水晶体はまわりが水晶体嚢と呼ばれる透明なふくろになっていて、白内障ではその中身だけが濁っています。そこで手術ではその水晶体嚢の前の方を5mm程度だけ丸くくり抜いて窓を開けてあげて、そこから中の濁りを除去し、その窓から人工レンズを入れます。しかし、この水晶体嚢というのは極めて薄い組織であり、サランラップをずっと薄くしたようなもので、気をつけないと5mm程度の窓から亀裂ができて破れてしまったり、あるいは後ろの方の水晶体嚢が予期せず破れることが稀にあります。これが「破嚢」という合併症です。
軽めの破嚢であれば少し手術時間が長くはなっても、まずまず問題なく手術を終えることができます。しかし重度の破嚢ともなると、破れ目から水晶体の中身が目の後ろの方へと落下してしまって、それをうまいこと取り除かなくてはいけなくなったり、硝子体という目の中にあるゼリー状の組織がその破れ目から出てきてしまって、それもうまく対処しなければなりません。この合併症の対処には実は極めて高い技術が必要であり、すべての眼科医がうまく対処できる訳ではありません。
当院では白内障手術を執刀している医師は私も含めて網膜硝子体手術も習得しております。よって硝子体の適切な処理も心得ておりますので、万が一のこういったケースであってもきちんと対応していますからどうぞご安心下さい。
ただ、破嚢した場合には1回目の手術において人工レンズを固定しにくいケースがあり、その場合には後日の再手術で人工レンズを挿入するか、あるいは特殊なコンタクトレンズを作成する場合があります。
また破嚢してしまうと、どうしても視力の回復が遅れたり、「飛蚊症」といって小さいゴミみたいな影が気になることがあります。通常は徐々に改善してゆきますが、そのあたりは個々のケースで微妙な差がありますので、我々が診察しながらご説明してゆくことになります。