コホート研究という言葉は、あまり聞きなれないかもしれませんが、大切な疫学的研究法です。
例えば、ガンになる人とならない人の要因どこにあるか ということを調べたい時、まず 年齢 居住地など一定の条件に合う対象集団を設定し、どの様な生活をしているかなどの要因(食事内容 喫煙 飲酒など)のデータを得ます。
そのうえで、健康状態を長期間、追跡調査して、どういうことが原因で発病するのかを一つ一つ分析。
とても多くの費用と人手が必要となる代わりに信頼性の高い方法とされています。
そういう意味で、その調査結果は貴重で多くの人に知られることは有用だと思うのですが、あまりその専門分野以外の人には知られていないか、マスコミが一部だけを切り取ってセンセーショナルな報道を打ち上げるといった印象です。
眼科の白内障領域では、奈良医大の藤原京スタディーが有名です。
藤原京スタディーというのは、奈良医大の疫学予防医学講座が2007年から行っていた高齢者の生活の質と生活機能に関する大規模コホート調査のことですが、2012年から眼科(奈良医大)も追加検診として参加して、眼科分野と全身疾患との関連を追跡調査した研究です。
奈良医大の緒方奈保子教授の抄録によりますと、眼科検診に参加した70歳以上(平均年齢 76.3歳)の方は約2900名。
視力不良の基準を矯正視力0.7未満としたとき、視力良好群の認知症率は5.1% 不良群 13.3%
視力が0.1悪化するごとに、認知症発症リスクは2倍になる。
2900名のうち、白内障手術を済ませている人 668名 非手術群 2096名
この2群を分析したところ、視力と関係なく白内障手術群の方が20%ほど認知症の前段階である軽度認知機能障害になるリスクは防げる。
白内障術後群では、未手術群に比べ、睡眠効率が良く中途覚醒が短く睡眠の質が改善する。
術前に比べ、術後に夜間メラトニンの分泌が増加し、睡眠の質を向上させていると考えられる。
白内障手術で視力が改善することにより、生活の質が向上するのは当然として、視力が改善しなかった場合でも、認知機能障害のリスクの低下 生体リズムの改善による疾病予防の期待ができるという結論でした。
白内障手術による視力の改善という因子しか、記憶にとどめていませんでしたし、何回も聞いた話と読み飛ばしていましたが、視力の因子と関係なく白内障術後に認知症に対しての好影響が期待できるという点が、改めて大切なポイントだったと今更ながら、気付きました。