今回は前回までに引き続き黄斑前膜の手術についての説明です。手術は硝子体手術、すなわち目の中の硝子体を切除し、さらに先が非常に細い鑷子(極細のピンセットみたいな器具です)を使用して網膜をできるだけ傷つけないように黄斑に張り付いた膜をめくり取る手術を行います。眼科のあらゆる手術の中でも最も細かく繊細な手術であり高い技術が必要ですが、当院では熟練した術者が手術をしているので、確かな技術で手術を行っています。ただこの手術は白内障のように手術後すぐに視力が上がるという訳ではありません。その理由としては、まずどんなに丁寧に膜を剥がしたとしても膜をめくるストレスや手術中の顕微鏡の光などにより多少なりとも網膜に負担がかかってしまうからです。これを手術侵襲と言いますが、やはり手術はあくまで傷口を作って切ったり触れたりをするので、どんなに気をつけても手術することのダメージは仕方のない部分があります。それから黄斑前膜を無事に剥がしても、剥がした瞬間から網膜の機能が元どおりに戻る訳ではなく、手術直後は特に見えにくいといった欠点もあります。通常は手術が無事に終われば、時間とともにゆっくりと網膜の機能が回復、改善してきて、徐々に視力が回復してゆきます。長い人だと手術後1〜2年ほどゆっくりと改善することもあります。また黄斑前膜の症状には、物が歪んで見えるとか、物が大きく見えるなどの症状が出やすいですが、残念ながら手術がどんなにうまくいっても、それらの症状は完全にはなくならないケースも多いのが現状です。ですから、白内障のように過度な期待を抱かれてしまいますと満足度は決して高くはない手術と思います。
しかしながら黄斑前膜は前回も説明した通り放っておくと徐々に進行し、徐々に視力が低下してきたり、物の歪みがどんどん悪化してゆく病気です。完全な失明はしませんが、かなり悪化するまで置いておきますと、手術しても戻りが悪く、良好な視力にまで戻る可能性がかなり低くなってしまいます。ですから完全に元どおりとは言いませんが、ある程度早い時期に手術した方が結果はいいと思います。手術時期に決まりはないですが、まずはきちんと診察を受けて相談してもらうといいでしょう。