ものが二つに見える、複視という症状があります。片目で見て複視が出るもの(片眼性複視)と、両目で見て複視が出るもの(両眼性複視)とがあり、原因となる病気も違います。
片眼性複視は、乱視や初期の白内障、またはこれらの組み合わせで起こるもので、必要であれば眼鏡やコンタクトレンズ、白内障手術などで対応できることが多いです。
一方両眼性複視では、右目と左目の位置がずれる、“斜視”の状態になり、左右それぞれの映像がダブって、ものが二つに見えます。 中年期以降に徐々に症状があらわれることがあり、原因として元々あった軽度の斜視が考えられます。若いときには目の力で力強く一つに見えていたのが、加齢とともに頑張りがきかなくなって、徐々に複視の症状が出てくるのです。これらは眼科で、プリズム眼鏡や斜視手術、場合によっては白内障手術によって治療可能です。
ただし、「ある朝起きたら突然に」など、突発的に起こる両眼性複視は、注意が必要です。脳動脈瘤(脳血管のコブ)の破裂、脳梗塞といった脳血管障害、いわゆる脳卒中で起こるものがあるからです。脳卒中が原因だと特に緊急性が高く、可及的速やかに脳神経外科や神経内科へ紹介の上、頭部CTやMRIを行ってもらいます。
脳卒中のチェック方法として、FAST(Face; 顔のゆがみ、Arm; 腕のしびれ、Speech; ろれつが回らない、Time; すぐに救急車を呼ぶ)が有名ですが、眼科では“突発性複視”も加わります。
検査の結果が脳卒中でなければ、目の周りの微小な血流循環障害が原因で神経が一時的に弱るために生じる、眼球運動の障害が原因であることがあります。ビタミン剤や循環改善剤の内服などにより、数か月から半年のうちに自然に軽快することが多いのであまり心配ありません。また糖尿病など全身の病気によるものもあり、内科で血糖コントロールを行います。
複視を自覚した時は、まず片目ずつで見てみるなどして、片眼性か両眼性かを確認することが大事です。両眼性で、突然起こった場合は、速やかに医療機関を受診することをお勧めします。自分ではよくわからない、という場合はまずは眼科で精密検査をしますので、受診を検討してみてください。(前沢義典)